ヘ波ツ丘句

September 2292013

 耳遠き身を聡くする虫の闇

                           河波青丘

成十七年、作者が88歳の年に句集『花篝』が出ました。一頁に二句、見開き四句の構成なので、眼鏡が必要な私にも読みやすく助かります。みなそうでしょうが、ふだん、字の細かい歳時記に苦心している読者にとって大きな活字はありがたい。掲句は80歳の作で、眼ばかりでなく、耳も遠くなってきたこのごろ、秋の夜は網戸にして窓はあけているので、鉦叩(かねたたき)のチンチンチンや松虫のチンチロリンの音が、身を聡(さと)くしてくれます。体の中を音が通過して浄化してくれている、そんな秋の夜長です。ところで、尺八の音階は「ロツレチリ」と謡い、西洋音階の「レファソラド」に対応します。チンチロリンとロツレチリ。日本の耳は、ロ、チ、リを好むのかもしれません。掲句は技巧も工夫されていて、「耳、身、闇」のmiで韻を踏み、また、「耳、聡、闇」の漢字は、「耳」と「音」からなる聴覚系で連ねています。チリリリリという虫の音に耳を傾け、聡明になっていく作者の身がたち現れています。(小笠原高志)




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